第36章 3日分の炎 ✳︎✳︎ +
「初めて2人で出かけた時、爪紅を塗っていただろう?」
俺は彼女の指と爪を1つ1つ触っていく。
「また共に出かける時に塗ってくれると嬉しい。君によく似合っていた」
「……はい」
「次は……」
「どうしたんですか?」
俺はほんの少し間を置いて、彼女にこう伝える。
「鮮やかな赤い爪紅が見たい」
「ふふっ、わかりました」
君が笑うと、俺も笑顔になれる。
「杏寿郎さんもまた1つ結びにしてくださいね?とてもかっこいいので」
「承知した」
ここまで言ってくれるなら、結ぶ機会を増やすのも良いな。
「杏寿郎さん、しのぶさんに先日教えてもらったんですけど」
「なんだ?」
さて、胡蝶。君は七瀬に何を教えた?
「爪の脇ってツボがあるらしくて。自立神経を整えてくれるようです」
「ほう」
ツボ、と来たか……。思いがけない単語が出て、やや驚いてしまう。もちろん良い意味だ。
「先程の香油のお礼をさせて下さい」
「お礼など良いのだが。だがせっかくの申し出だ……頼む」
「はい!」
彼女は俺の右手を自分の掌に乗せ、親指と人差し指で、俺の爪の両脇をつまんで一本一本押しほぐしていく。右手が終わったら左手も同様にやってくれた。
「はい、終わりです」
そう言うと、俺の左手をゆっくり離していく。
「うむ。確かに気持ちがすっきりしたぞ。ありがとう」
しかし、何故この指だけしなかったのか…?