第36章 3日分の炎 ✳︎✳︎ +
「ありがとうございます……」
そうはにかんで、お礼を口にする七瀬。
「うむ。素直な君は一段とかわいい」
よしよし、と彼女の頭を撫でる。
七瀬と恋仲になって、自分自身でも驚いた事がある。
それは彼女を褒める事だ。
稽古時、上手くできた時や俺の予想以上の事をやった時にも褒めてはいる。しかし、それは”剣士や継子としての彼女”
今は……”愛おしい恋人”として、彼女を褒めている。
「あ」
どうした?何か腑に落ちた…そんな表情を見せる君。
「杏寿郎さんも私の事……」
「ん?」
「剣士としても見てくれるし、恋人としても見てくれるんだなあって思ったんです」
俺は掴んでいた恋人の右手の掌に口付けを落とした。
「どちらの君も俺は好きだからな」
「ありがとうございます」
花が咲いた笑顔、とはよく言うが…君の笑顔は本当にそんな表現に値するな……もっと咲かせたくなってしまう。
「指も綺麗だ」
形の良い爪は艶々と薄い桃色。こんな所も本当にかわいらしい。
「そ……ありがとうございます」
今度は素直にお礼を口に出してくれた。