第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
ちょうど掌に収まる大きさの茶色のガラス瓶に液体が入っているのが確認できた。
「柑橘系の匂いがします。爽やかな香りですね」
「異国の言葉でシトラス、と言うそうだ。肌にも髪にも使用出来るらしいな?」
「ええ。気分を変えたい時にたまに使ったりするんです。そうそう、私、彼女に香油の事を教えてもらったんでした」
沙希は女の子らしい女の子なので、美容やおしゃれについてかなり詳しい。
だからいつも「せっかく女に生まれたんですよ?七瀬さんも、もっとおしゃれしましょう!」と、言われている。
「うむ!それを彼女から聞いた故、香油にした」
「ふふ。そうだったんですね」
私の胸に温かい気持ちがポッと灯る。
「せっかくだからつけてみても良いですか?」
「ああ。そうしてほしい」
瓶の蓋を開けて、2センチ弱程掌に出し、毛先につけてみた。
私の顔周りからふわっと柑橘系の香りが漂う。
「とても良い匂いです。杏寿郎さん、ありがとうございます!大事に使いますね」
私はまた自分から彼をギュッ、と抱きしめた。
「3日振りだな」
杏寿郎さんは私の体に両腕を回しながら、呟いた。
「これから遠方への任務が入った時、少し……いや、かなり心配だ」
「心配……ですか?」
「ああ」
「ん……」
彼は私の顎を掴んで、啄む口付けをくれる。