第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
杏寿郎さんの口付けだった。気持ちがたくさんこもった……。
唇が離れると、私は吸い寄せられるように彼の体に手を回した。
ギュッ、と力を入れると恋人は私の体に大きな腕を回してくれ、包み込むように抱きしめてくれる。
やっぱり杏寿郎さんにこうしてもらえるの、本当に好き。心から安心出来るもん。
「実はな」
頭上から彼の声が聞こえる。
「どうしたんですか?」
「うむ……」
私の背中に回した両腕に更に力が加えられた。
「君に何か贈り物を……と思って、彼女に聞いてみたんだ」
「え?」
「俺はこういう事に本当に疎くてな。自分1人で考えてみても全く良い案が浮かばなかった……だから君と仲が良い藍沢少女なら、思って話をした」
「そうだったんですね」
何だ、完全に私の勘違いだったんだ。恥ずかしいな。そして何とも情けない。
「私を驚かせようと思っていたから言い出せなかったんですね?」
「ご名答」
彼を改めてギュッと抱きしめる。
「それで、何にするか決まったんですか?」
「ああ」
一旦私を自分から離すと、懐に手を入れてあるものを私の右掌に置いてくれた。
「これ、香油?」