第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
「正直に言う」
彼は膝に置いている私の両手をゆっくりと包んでくれる。
「君からの大嫌いと言う言葉はかなり堪えた」
……ですよね。本当に酷い事を言ったもん。
「どう言う態度を取れば良いか戸惑った。故に、君に嫌な思いをさせた」
それも無理ないなあと思う。私だって逆の立場なら似たような事をしたかもしれない。
「七瀬?」
杏寿郎さんが私の顔を覗きこんで来た。
一旦目を瞑って、俯いた顔を上げる。今度はいつも通り、彼の目をみる。
「今回の事でよくわかりました」
「何がだ?」
「杏寿郎さんと会話する事って私の当たり前になっているんだなあって」
「当たり前、か?」
「はい」と頷いて、こう続けた。
「当たり前がなくなるのって、心が抉られる事なんですね」
次の瞬間 ——— 口元に温かいものがそっと触れた。