第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
「話は出来るだろうか」
いつもの快活で凛とした声音は鳴りをひそめて、静かな口調で私に問いかけて来る。
筆を置いてそろそろ……と、体の向きを変えて杏寿郎さんに向き合う。顔を見られたくないので、俯いたまま。
「………顔を見せてくれ」
「………」
嫌だ。こんな酷い顔、見られたくない。
目の前に彼の気配。大きな掌が私の両頬を包み込む。そのままゆっくり、ゆっくりと顔を上に向かされた。
杏寿郎さんの赤い目が私をみている。いつもはずっと見ていたい瞳だけど、今の私には彼の目をみるのが少し辛い。だから目を向けられなかった。
「手紙を書いていたのか?」
「はい。炭治郎に相談しようと思って。向こうの家に戻っても良いかって」
「そうか」
杏寿郎さんは、私の両頬を包んでくれていた掌をゆっくりと下に下ろした。