第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
「うっ、ひっく……」
部屋に帰って来た途端、また涙が溢れ出した。泣きすぎて目が痛い。鼻も真っ赤。
昼食のお手伝いがとても出来そうになかったので、千寿郎くんにその旨を伝えて来た。もの凄く心配されたけど、何とか説得して台所を後にした。
あの様子だともう元の仲に戻れないのかな。
もう完全に嫌われてしまったのかな。
幸い、と言うか何と言うか。
荷物がまだ全部こっちに運びきれてないから、また向こうの家に戻ろうか。
私は炭治郎に相談の手紙を書こうと文机の前に座った。
カナヲにも相談しないとな。置いてある筆を手に取り、2人に向けて手紙を書き始めた時 ———
「七瀬、今いいか?」
襖の向こうから杏寿郎さんの声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
座ったまま、返事をすると襖が開いて彼が入って来た。こちらに近づく気配。私は振り向かずに筆を動かす。