第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
何で?じゃあ言ってくれたって良いじゃない。もう嫌だ。悲しくなって来た。心が沈みそう。
「……杏寿郎さん……です」
「ん?よく聞こえないんだが……」
彼が顔をずいっと近づけて来る。
「杏寿郎さんなんて、大嫌いです!」
「………!」
「あ……」
恋人がとても悲しそうな顔をした後、私の右手を掴んでいた腕を力なく離した。
「おやすみなさい……」
いたたまれなくなった私は逃げるようにその場から立ち去った。
自分の部屋に帰るまで、彼の顔がずっと焼き付いて離れなかった。
襖を開けて、太刀掛けに日輪刀を置く。涙が1雫、目から流れて来ると、次々に溢れて声を出しながら私は泣いた。