第34章 岩柱・悲鳴嶼行冥 +
「不死川少年、どうした?」
“ん? “ と大きな日輪の双眸が玄弥を不思議そうに見つめている。
七瀬に言われた事を、目の前に座っている杏寿郎に伝えると…。
「少年、それは当たり前だ。師範は継子に簡単に負けるようではいかん! 悲鳴嶼殿、そうだろう?」
「ああ……煉獄の言う通りだ」
行冥の光を失った瞳に笑みが浮かぶ。
玄弥は師匠の穏やかな表情を久しぶりに見て、また笑顔になる。
「俺は一生悲鳴嶼さんに勝てないと思いますよ」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」
「まるで、禅のようだな!」
ワハハと豪快に笑う炎柱の声が岩柱邸の客間の空気を、更に和やかに変えていく。
鬼が出てこれない昼間の時間。貴重な貴重な柱二人が過ごすひとときだ。
「今日の炊き込みご飯もまた美味しかった。玄弥、礼を言う」
「ご馳走様!俺も同じだ。とてもうまかったぞ! そういえば少年、七瀬から文を預かっている」
「あ、はい! ありがとうございます」
昼食を食べ終え、三人分の丼をぼんに乗せた玄弥は、炎柱より手紙を受け取り、客間を静かに出て行った。
「互いに良い弟子に恵まれたな、悲鳴嶼殿!」
「しかし、玄弥は呼吸が上手く使えない。私はあの子が無茶をしないか心配だ」
「それは俺も同じだぞ! 七瀬は二つの呼吸が使用出来るが、その分体にはやはり負荷がかかる。無論鍛えてはいるが、甘露寺のように筋肉量が並外れているわけではない」
「なるほど、だからそこが懸念だと」
「そうだ、だが……」
それでも継子である七瀬が、自分と同じ呼吸を使用し、隊士として成長していく姿を見て行きたい。
はっきりと迷いない口調で炎柱は岩柱に伝えた。