第33章 風柱・不死川実弥 +
「それじゃあ、傷にあまり響かないようにお願いします」
「……善処しよう」
ふふっと笑う七瀬に、ん?と首を傾げる杏寿郎だ。
「いえ、やらないって選択肢は杏寿郎さんにはないんだなあって」
「言っただろう、君の肌を見てしまったのだ。故にそれはない!」
「はい…わかりました。どうかお手柔らかにお願いします」
「承知した」
笑顔の七瀬の唇を、杏寿郎の唇が柔くしっとりと吸った。
二人で過ごす、甘くて深い時間の始まりだ。
★
「大事ないか? 七瀬」
恋人に言われた通り、杏寿郎は己の欲を出来る限り調整はした。一見七瀬が苦しそうにしている様子は見られなかったが…。
「杏寿郎さん、やっぱり優しい。大丈夫ですよ」
「そうか…良かった」
「でもその分、たくさん花が咲いてますけど。こことか隊服で隠れるんでしょうか…」
七瀬が指でさした場所は、左手首と手の甲の丁度境となる部分だ。小さいけれど、そこには赤い鬱血痕が二つ連なっているように咲いている。
尚これは右手首も同様だ。
「虫に刺されたとでも言えば良いだろう」
「それ、夏だったら通用するかもしれませんけど……今はまだ春ですよ?」
「むっ……」
『あ、ちょっと困ってる。かわいいな』
恥ずかしいのは確かだが、七瀬はそれよりも普段見る事が少ない恋人の表情が愛おしい。
「こら、またか」
「え?」
瞬間、むにっと彼女の唇が杏寿郎の指でつままれる。
「かわいいは男には禁句だぞ」
「ふふっ……」
「何故そこで笑うのだ?」
「ふぁって……」
「ああ、すまん。これでは君が話せないな」