第33章 風柱・不死川実弥 +
「確かに俺は君の側にいつもいれるわけではないが…気圧が変化すると体調が変わる場合がある、と言うのは知識として持っているぞ。七瀬にとっては大事な事だろう?」
「すみません……黙ってて。飲み薬も処方してもらっていますけど、粉薬が苦手で…」
嗜めるように恋人に言われてしまった七瀬は、蓋が開いた容器を杏寿郎に渡す。
「お願いします」
「承知した」
にっこりと笑った炎柱は先程手洗いを済ませた清潔な指で容器の軟膏をすくうと、七瀬の白い背中に少しずつ塗っていく。
「ふふ、少しくすぐったいけど気持ちいいです」
「そうか! であれば良かった」
「杏寿郎さん、手も大きいけど指も大きいですよね〜」
「七瀬、今更それを言うのか?」
右上から左下まで刻まれている大きな傷痕だ。そこに適宜軟膏を塗り終えた杏寿郎は蓋を閉め、七瀬に容器を渡す。
「ありがとうございます…しっかり塗ってもらったから、これで大丈夫そう……杏寿郎さん?」
着物を羽織り、文机に軟膏を置いた彼女の背中を彼はそっと抱きしめた。あたたかな体温が互いを優しく包んでいく。
「あの、どうしたんですか?」
「ダメか?」
「いいえ、とっても嬉しいです。杏寿郎さんにこうして貰うのも好きなので」
「………」
「杏寿郎、さん?」
くるっと体を彼の方に向けられると、左頬がゆっくりと杏寿郎の大きな手によって包まれた。
じっと日輪の双眸と焦茶の双眸が互いを認識すると、二人の顔が近づいて唇が柔らかく合わさる。
「傷痕に軟膏を塗る為とは言え、君の肌を見てしまった。故にどうにも抑えられないのだ。良いか?」
「えっと……」
両頬が包まれ、七瀬の唇に再び口付けが届いた。 優しいけれど、その先を促すような —— そんな愛撫が。