第31章 風を知り、岩を知り、そして全呼吸の理(ことわり)を知る
杏寿郎がそうっと襖を開ければ、そこには敷かれた布団に寝ている七瀬がいた。
穏やかな顔で寝息を立てている。
「岩柱様のお屋敷は山道を登らないと辿りつけないと聞きました。お疲れが出たのですね…」
「不死川の所に前日行き、それから任務を経て悲鳴嶼殿の所に行ったんだ。流石に七瀬にはきついだろうな」
「本当にいつも頑張っていらっしゃって……わかりました。では後1時間したらお声をかけます」
「うむ!そうしてくれ」
千寿郎が台所に引き返すのを見送った後、杏寿郎は襖を閉め、寝ている七瀬の側に座る。
「杏寿郎さん…ふふ…もう食べれません…」
『また君は夢の中でカステラを食べているのか?』
寝言を言いながらにっこりと笑う七瀬に、そっと触れるだけの口付けを落とした杏寿郎。彼は彼女の左頬をひと撫でして任務に向けて準備を始めた。
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「杏寿郎さん、気ををつけて行って来てくださいね」
あれから千寿郎くんに起こしてもらった私は、夕食の準備を終え、門扉まで一緒に来た。
自分が非番の時はいつもこうするのが当たり前になっていて、彼が非番の時も同じように門扉まで送ってくれる。
それは何故かと言うと………