第31章 風を知り、岩を知り、そして全呼吸の理(ことわり)を知る
「ただいま帰りました」
玄関からそう声をかけると、千寿郎くんが出迎えてくれる。
「七瀬さん、お帰りなさい。お疲れさまでした。どうでした?岩柱様の所は…」
「うん、凄かったよ…流石は最強と謳われている悲鳴嶼さんだけあった」
私は脱刀をした後、草履を脱いで家に上がる。
「杏寿郎さんは?」
「兄上は仮眠されています。今夜は任務があるので、じき目覚めるとは思いますが…」
「わかった、ありがとね!」
「あ!朱雀の掛け軸…」
居間の横を通り抜けようとすると、槇寿郎さんが丁度飾っている所だった。
「おかえり。七瀬さんは朱雀を知っているのか?」
「はい!戻りました。四神の一種ですよね……北の玄武、東の青龍、西の白虎に……南の朱雀!」
「ほう、よく知っているな」
しばらく槇寿郎さんと四神の話をして、一度自分の部屋に戻る。
「杏寿郎さん、戻りました」
着物に着替えた私は彼の部屋の襖の前からコソッと小さな声をかけた。起こしたら申し訳ない…そう思って、すぐ自分の部屋に戻ろうとすると……襖が開いて、着流し姿の彼が姿を現す。
「おかえり、七瀬」
「…すみません、起こしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ。充分仮眠は取った!君の話が聞きたい」
「はい」
私は彼の部屋に入った。