第31章 風を知り、岩を知り、そして全呼吸の理(ことわり)を知る
「こら、ため息をつくな」
「だって……」
両頬を包まれると、おでこをコツンと当てられた。
「先程、俺は自慢だと言ったばかりだぞ?君はもっと自信を持っても良い!」
「はい……」
彼にこう言われると、あっという間に元気になれる。杏寿郎さんは教えるのも上手だし、励ますのも上手だなあと本当に思う。
「見てみたいがな。時透と君が一戦交えるのを」
「えぇぇ……天才ですよ??」
おでこが離れれば、今度は両手を大きな手で上から優しく包まれた。
「確かに時透は天才だ。しかし天才と言えども、完璧な人間と言う物はいないぞ?」
上目遣いで私を見る彼が両手にちう……と口付けを落とす。
ん……この目はダメ…。
恥ずかしくて目を逸らせば「違うぞ、目線はこっちだ」と顎を取られて、位置を戻された。
「…七瀬」
名前を呼ばれるともう一度、温かい口付けが私の口元に届く。
そして前からぎゅう…と抱きしめられた。
ドク、ドク、と私の耳に届く彼の心音を聞くと安心感が増す。
「はい、何ですか?」
大きな背中に手を回して目を閉じた。こうすると、より彼の心音が体に響いて安心出来るから。
「やってみたらどうだ?時透と」
杏寿郎さんが私の後頭部を優しく撫で始めた。
「そうですねぇ………」
ううん、どうしようかな。