第31章 風を知り、岩を知り、そして全呼吸の理(ことわり)を知る
「嬉しいです。ありがとうございます」
唇が離れた後、私はぎゅっ…と大好きな彼に両腕を回した。
あ……そうだ、無一郎くんと言えば……
「杏寿郎さん、ご相談があるんですけど」
「相談?どうした?」
「一度は無一郎くんとも勝負しなくちゃいけないでしょうか?あれから、1ヶ月に一度は手合わせしたいってお手紙が来るんです……」
「光栄な話じゃないか」
確かにあの霞柱から言われるなんて光栄。
だ・け・ど。
「分部相応な気がやっぱりするから、毎回お断りしてるんです。そしたらその度に銀子ちゃんが……」
「銀子……?」
「無一郎くんの鎹鴉ですよ」
ああ…と頷く杏寿郎さん。
銀子ちゃん……無一郎くんを溺愛していて、彼に対する熱量がとにかく溢れすぎている。
「テンサイト呼バレテイル無一郎ノ誘イヲ断ルナンテ、アンタ本当ニ馬鹿……大馬鹿ネェ!!」
「10人並ミ!10人並ミ!アンタハ美少年ノ無一郎ノ爪ノ垢デモ…アア!ソレハ絶対ダメ!無一郎ノ細胞1ツタリトモ渡セナイ!」
「何デアンタナノ!炎柱ノ継子ガ何ダッテ言ウノ!!チョットバカリ剣才ガアルカラッテ調子二ノルンジャナイワヨ!!」
………とまあ、こう言った具合に。
私、剣才はそんなにないと思う。どちらかと言うと、積み重ねと運でやって来たもの……。はあ、と一つため息をついた。