第31章 風を知り、岩を知り、そして全呼吸の理(ことわり)を知る
私は夢を見ているのだろうか。
目の前の風柱が真っ赤な顔をしている。柱合会議で見た彼が幻だったのか……それともやっぱり今現在、白昼夢でも見ているのか。
不死川さんは赤い顔のまま、おはぎを黙々と食べ続ける。よくよく見ると、彼は器用に楊枝を使っておはぎを口に含んでいた。
粗野で乱暴な印象しかなかったけど、所作もきちんとしている。
白銀の髪に小作りの顔。杏寿郎さんや冨岡さんも小作りの顔だけど、彼は更に一回り小さい気がする。顔の右側に集中している傷痕。
だけど、鼻はすっと通っているし、瞼の上下に生え揃っているまつ毛も長い。杏寿郎さんより長そう…と言う事は私よりも……
はあ。
思わずため息が出た。
「おい、どうしたァ」
おはぎを食べ終えた不死川さんが私を訝しげに見ている。
「いえ、なんでもないです……」
「なら良いんだけどよォ」
どうしよう。予想外だった。不死川さんがこんなに優しく接してくれるなんて。
「よし、食ったなァ」
私がおはぎを全部食べた事を確認した彼はお茶を飲み干すと、突然立ち上がる。
「ちょっと来いやァ」
「え?どこにですか?」
「庭に決まってんだろうがァ」
「は………?」
“虚をつかれる”と言う言葉はこの時の私に最も相応しい。