第30章 可愛いとかわいい ✳︎✳︎ +
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「んっ……」
「気がついたか? 」
「よし、では俺は冷たい茶を持って来よう。おい、手が止まってるぞ! しっかり仰いでやれ」
この声、杏寿郎さんと槇寿郎さん……?
意識を取り戻すと私は自室に寝かせられていた。右横を見てみれば、丁度槇寿郎さんが部屋から出ていく所で、視線をずらすと心配そうに私を覗き込む恋人の顔が見えた。
「私、あの後どうなったんですか?」
「俺が君の体を吹き、衣服を着せた後は、父と千寿郎がここまで運んでくれたのだ」
「そっかあ。お手間かけてしまいましたね」
「七瀬、すまん……」
「ふふ、大丈夫ですよ」
布団に寝ている私の傍で団扇をパタパタと仰ぎながら謝る杏寿郎さん。いつもピン!と吊り上がっている眉毛がたれ下がっていて、その様子がとてもかわいい。
ふふっと私が笑えば「また可愛いと思っている顔だな」と彼が私のおでこを人差し指で優しくトン、と押す。
「男として不甲斐なし!穴が入ったら入りたい思いなのに、可愛いはないだろう?」
「いえ、ああなる前に早く伝えなかった私も悪いので。ごめんなさい。でも……」
「ん?どうした」
おでこに当てられる大きな手。安心してしまう体温がそこに伝わって来た。
「いつも男らしい杏寿郎さんが私は大好きですけど、かわいい杏寿郎さんはもっと……好きですよ?」
「……!!」
彼は珍しく顔を赤くして、口元に手を当てた。あ、照れてる…!!
「君は時々、心臓に悪い事を言うな……」
「私はいつもあなたにそう言う事を言われていますけど…」
「む……そうか?」
「そうですよ」
ささやかなお返しと言うか何と言うか。いつも翻弄されているので、ごくごくたまに杏寿郎さんが困る姿をこうしてみれるのはちょっと嬉しい。