第28章 神器と共に炎の神楽を舞い踊れ ✴︎✴︎ +
「杏寿郎さん」
「……どうした?」
私が駆け寄ると、少しだけ肩を上下させて答えてくれた。どうやら大きな怪我はなさそう。良かった…
「いつの間に不知火の連撃なんて…」
彼の右頬から少し血が出ていたので、私は手ぬぐいを袴の衣嚢(いのう=ポケット)から取り出し、そっと拭いながら問いかける。
「ああ、すまんな。あれか?君が特別稽古で見せてくれた後から少しずつな。実際に日輪刀で使ったのは今日で2度目だが」
そうなんだ、2回目であの威力……。
私は何回も実戦で使用してようやく形になったんだけどな。経験値が全然違うから仕方ないかあ。
「俺はそれよりも双頭の炎虎に驚いたぞ」
「…ありがとうございます。任務で一度試しにやってみたら、何とか出来たんです。だから実践でひたすら磨きました」
そうか、と笑った彼は私の頭をよしよしと撫でてくれた。
「怪我はしてないか?……ん?左手を擦っているな」
「え?あ、本当ですね、夢中だったので全く気づきませんでした」
杏寿郎さんに言われて意識が左手に向いた為、急にズキズキ痛み出した。
「出血は少しだけですし、大丈夫ですよ。ほら止血もすぐ出来ました!」
グッと力を入れると、滲んでいた血がピタッと止まる。
「ダメだ。念の為、胡蝶に診てもらいなさい。外から見える状態と中の状態が違うと言う事は、往々にしてあるものだぞ?」
「ふふ、そんなに心配しないでください」
「俺は師範だが、その前に君の恋人……故に心配するのは当たり前だ!」