第3章 起きて進め
「四谷怪談に出てくる女性ですよ」
「うむ。それは知っている。して君は怪談が好きなのか?」
うん?
「いえ……どちらかと言うと苦手なんですけど……」
「では何故、今怪談の話をするのだ?」
あーダメだ、例えが通じてない………。
額に手を当てて苦笑いをした後、恐る恐る……と言った様子で顔を上げてみれば、炎柱様と目が合った。
「なるほど。確かにお岩さん程ではないな」
彼はフッと笑う。
どう見てもひどい顔だと思うんだけど、そんな風に言ってくれるんだ。優しい方なんだなあ。
「柱の方はお忙しいと思いますが……娯楽を楽しむと言う事はあるんですか?」
気持ちが少しほぐれた私は彼にそう聞いてみた。
「ああ!非番の日は相撲や歌舞伎を観に行ったりするぞ」
「能もだな!」と付け加えて、炎柱様は明るい声で答えてくれる。