第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
「嬉しいものだな」
「え?」
彼を見ると、また優しい表情をしている。
「俺の事を思って、色々考えてくれている事が」
「それは好きな人の為には少しでも……」
「少しでも、なんだ?」
………恥ずかしいなあ。これ言うの。
「綺麗でいたいなあ、かわいくありたいなあって。思いますから」
言葉に出した瞬間、耳まで赤くなったのが自分でもわかる。
「…七瀬」
「はい」
「ありがとう。本当に嬉しい」
「いえ」
そこで一旦会話が途切れる。でも、この沈黙も心地いい。彼が手を繋ぎ直した。
腕相撲をしている時はそんな事を考える余裕が全くなかったけど、杏寿郎さんは本当に手が大きい。だから繋いで貰っていると安心する。