第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
これは私が「見たい」とお願いしたら快く結んでくれた、と言っても結んだのは私だ。
いつも少しの量しか結ばない為か、全部の髪を結ぶのは難しい。
そんな理由から「やりたい」と申し出たら、快く結ばせてくれた。
我ながら上手に結べたかな?と思う。と、言う事で本日の彼はいつも以上にかっこいい。
だから、先程からすれ違う女の人の殆どが彼に視線を送る有様だ。
元々端正な顔立ちの人だし、所作が綺麗と言うのもあるけど、日常着る物に袖を通すとそれが際立つ気がする。
また1人の女の人の視線がこちらに向けられた。
ああ……真っ赤だ、あの人。横に恋人らしき男の人がいるけど、大丈夫かな?
でも気持ちはわかる……だって私も彼の横にいると、普段より心拍数が多いもん。
そして心臓の跳ね具合。これがもう……トビウオのように高く跳ね上がる勢い。
私がこんなに動揺している横で当のご本人はと言うと、全く気に留めていない。
こう言う所、本当に杏寿郎さんらしい。無自覚って恐ろしいなあ。
罪な人と言うか何と言いますか……ねぇ。