第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
十分後、杏寿郎さんの髪を結び終えた私は達成感と一緒にある思いを抱いていた。
本当、兄弟だよね。そっくり。
彼は手鏡で後ろを確認しながら、ふーんとかうむとか言っている。
そんな仕草を見て癒された私は、先程感じた事を杏寿朗さんに伝えた。
「やっぱりこうすると、千寿郎くんによく似てますねぇ……何がおかしいんですか?」
「いや、すまん。俺も丁度同じ事を考えていてな」
くつくつと笑った —— と思ったら、私と同じ事を考えていたのだと言う彼。ふっと笑顔を見せた瞬間、杏寿朗さんの柔らかな唇が私の右頬にちう、と届く。
いつも自分が使っている香油が恋人の髪からも香る。
嬉しさと照れくささが一度にやって来た上に、突然の口付け。これだけで自分の心臓が跳ね上がってしまった。
「杏寿郎さん! いきなりそう言う事するとびっくりします」
「ああ、すまない。普段君が化粧をしている姿をみる事がない故に新鮮でな」
「だって……今日は…」
“大好きなあなたと初めて出かける大切な日だから”
これは直接口には出ず、喉の奥に引っ込めてしまった。困るなあ。恥ずかしいからあんまり見ないで欲しい……。
彼はそんな私の右頬にもう一度だけ口付けをし、玄関で待っていると告げて部屋を退出していった。
杏寿郎さん、やっぱりずるいな。
ぱち、と軽く両頬を叩いた私は巾着に必要な物を入れ、彼の待つ玄関に向かったのだった。