第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
「君は橙色か? 珍しいな。このような色も持っていたとは」
私がが普段隊服の上に着用している羽織は、青柳色(あおやぎいろ)で寒色系。巧の墓参りで杏寿朗さんと会った時も、同じ寒色系の青紫色を着ていた。
だから私と言えば、寒色系。
そんな印象を彼を始めとした周囲の人に与えているようだけど…
「先日自分の衣服を見直したら、全部寒色系で何だか笑えて来て。青が好きとは言え、流石にこれは多すぎかなあと。だから呉服屋に目聞きの友人と一緒に行って仕立てたんです」
「ほう、そうだったか」
「後、初めて袖を通したから落ち着かないんです」
そんな事も続けて発言する私を、彼はまじまじと見つめ始めた。
好奇心とが大半を占めているその双眸は私の顔だけではなく、指先にも向いている。
待って! 今はまだ見ないでほしい。
「杏寿郎さん! 用事があったんじゃないですか?」
「そうであった! 実はな…」
恥ずかしさを振り払うように彼に声をかけると、少しだけ残念そうな表情をする杏寿郎さん。
でも彼はすぐに気持ちを切り替え、この部屋に来た理由を告げてくれる。
どうやら髪を結んでほしいらしい。
「任せて下さい。妹の髪をよく結んでいたので慣れています」
「そうか、では頼む」
「どうぞ、ここに座って下さい」
彼には私が普段使用している座布団の上に座ってもらい、文机の上に置いている手鏡を持って欲しいとお願いする。
すると、素直に持ってくれる杏寿郎さんだ。
「いつも一部分だけ結ぶから問題ないと思ったんだが、全てとなると案外難しくてな」
「杏寿郎さんの髪、結構量がありますからね。髪質もふわふわしてるし、難しいかも。じゃあまず櫛でとかしますね。まとめやすくする為に香油も少しつけて良いですか?」
「うむ、問題ない!」
ふふ、髪結師になったみたい。気分が高揚して来た私は張り切って彼の髪を結び始めた。