第3章 起きて進め
あれは巧が亡くなる1ヶ月前だっただろうか。
彼と手合わせをして、いつも通り私の至らない所を教えてもらっていた時の事だ。
「水の呼吸は足捌きが重要だろ。お前は進む方向と逆の足で押し出す動きが、おざなりになる事が多い。だから打った後、抜けるのが遅くなるんだよ」
図星だった。さすがもうすぐ柱になるだけの事はある。
次期鳴柱……と言っていいよね。巧に指摘された事を踏まえて動いてみた。すると ——
「うん、そうそう。今の感じ忘れるなよ!後は体幹かな。そこがしっかりすればもっと良くなると思う」
両腕を組んで首を2回振る彼だ。
私の動きに納得がいったのだろう。「今日はここまで」と言い、彼は少し歩いていく。
そうして斜面になっている草葉に腰を下ろした。
巧を追った私が横に座ると、急にこんな事を言い出した。
「お前、同期って今神崎だけ?」
「うん、そうだね。アオイちゃんだけかな……」
「そっか、良いな」
「俺は1人もいない。みんな鬼に殺された」
「………」
巧は遠くを見つめるように目を細める。それから深いため息をついて双眸を一度瞑り、話を続けていった。
「これ、話したかな?俺達の代はめずらしく参加者の半数以上が選別に残ったんだ。運の良さもあったかもしれないけど……結構誇らしいものがあってさ」
「うん……」