第3章 起きて進め
「煉獄だ。入室しても良いだろうか?」
「……炎柱様ですか?……」
アオイちゃんはややびっくりした様子で尻を指先で軽く拭う。その後、私に「大丈夫?」と目で促してきた。
同じように指先で涙を慌てて拭うと、「うん」と私は頭を縦に振った。そして彼女は「どうぞ」と外へ向かって声をかけ、炎柱様に部屋への入室を促した。
炎柱様。
確か、冨岡さんと同じ柱の方だよね。そう言えば巧が何度か任務で一緒になったって言ってたような……
—— どうして私の所に?——
体に緊張感を感じる。そして背筋を伸ばす。
ガラ……と引き戸を開けて入って来たのは、肩まである金色の長髪の一部を後ろで束ねている男の人。
日輪を思わせるとても印象的な赤い双眸の上には、吊り上がっている独特な形の眉毛。
スッと通った鼻筋に意志の強さを感じさせる口元。そして、肩にかけている羽織は燃える炎を思わせる様相。
わぁ……炎柱と言うだけの事はあるなあ。それが私の第一印象だった。
「沢渡七瀬は君か?」
その人はとてもよく通る声で私に聞いてきた。
「はい……沢渡は私ですけど……」
ゴクンと唾を飲み込む。
炎柱様がその口から出した言葉は思いもよらないものだった。
「桐谷くんから言伝を預かっている」