第16章 甘露煮と羨望
「決まりましたよ」と私が伝えると、蜜璃さんは「すみません♡」とまたもやキュンと音がするような声で、デレデレお兄さんを呼んでくれる。
彼は突風が吹くが如く、すぐに注文を取りに来てくれた。
「今日の定食も本当に美味しいわ。幸せ!」
蜜璃さんは日替わり定食の天ぷら定食、10人前、焼き魚定食を10人前、そして牛鍋定食を10人前注文して、もりもりと幸せそうに食べている。
いつ見てもこの食べっぷりは凄い。師範も食べっぷりは良いけど、蜜璃さん程じゃないもんなあ。
私はちょっとだけ大盛りにしてもらった牛鍋定食を黙々と食べながら、目の前の姉弟子を微笑ましく見ていた。
初めて蜜璃さんと食事した時は食べる量が全くわからなくて、お店が用意していた分量があっと言う間に底をついた。
なので、このお店に行くとわかっている時は前もって伝えておくようにしている。
「あら?今日は牛鍋定食にさつまいもの甘露煮がついているのね」
天ぷら、焼き魚と完食した姉弟子は牛鍋定食が机に置かれた際、そう呟く。丁度、私が甘露煮を食べ始めた時だった。
ふふっと蜜璃さんは笑うと「煉獄さんの継子だった時、よく一緒に食べたの。懐かしいわ」と嬉しそうに言って甘露煮を一口含む。
「うん、さつまいもに砂糖の味がよく染み込んでて、とっても美味しい」
………師範との思い出の味、かあ。当たり前だけど、姉弟子の蜜璃さんは私が知らない師範を知っている。
良いなあ。私もその頃の師範に会いたかったなあ。
そして甘いさつまいもを口に含むと、少しだけ塩辛い味がした。
——— 私の目から一雫の涙がお皿に落ちたから。