第66章 I want to be scarlet ✳︎✳︎
「うむ」
重ねられた手がゆっくりと絡められた。私の小さな手をいつもしっかりと繋いでくれる彼の手。
じんわりと力が湧いてくるのは杏寿郎さんの心が自分に伝わってくるからだろう。
「七瀬は自分の事が好きか?」
「えっ、自分の事ですか……。そうですね……」
考えてもみなかった事を言われて、しばし思考を巡らせる。
「うーん……。しょっちゅう落ち込む自分が時々嫌になる時があります。だから、あまり好きではないかもしれません……」
すると、少しだけ残念そうな表情を見せる杏寿郎さんだ。
「俺は君のそう言う所も好きだぞ?落ち込んだ後は必ず奮起して、また前を向くしな。どんな時も自分の感情から目を背けない。これはなかなか出来る事ではないように思う」
「ありがとう……ございます」
自分自身が嫌だな、改善したいなって思っている部分でも大好きな人が”好きだ”と目の前で伝えてくれる。
これってとってもありがたい事だな、と本当に思う。
「そうやって素直に礼を述べてくれる所も好きだ」
「杏寿郎さんがそう言ってくれる事、物凄く嬉しいです」
私からきゅっと絡めた手を繋ぎ直すと、彼もそれに応えてくれるようにきゅっと手を繋ぎ直してくれた。
「ちょっと難しいかもしれませんが、少しでも自分が好きだなって思えるように出来る事からやってみますね」
「ああ、そうして貰えると嬉しい」
それからうどんを全部食べた私達は、真っ直ぐ帰宅の途についた。
“自分のここが嫌だ”
そう感じる部分でも、認めてくれる人がいる。しかもそれが恋人だと思うと途端に勇気が湧いてくる。
私も誰かにそう言ってあげられる人になりたい。
——— その機会はすぐに訪れた。