第66章 I want to be scarlet ✳︎✳︎
「どうした?」
「いえ、母がそう言えば…」
つい今しがた考えていた事を杏寿郎さんに伝えていく。
「確かに出汁の味付けが東日本、西日本では違うな。俺も大阪任務の際、うどんを食べた時にそれを感じた。薄めだったが、こちらの濃い味付けとはまた趣が違って美味かったぞ!」
私は彼のこう言う所、本当に良いなあと毎回思う。
慣れ親しんでいる地域の味だけではなく、違う地域の味も受け入れる度量と言うのかな。
それがそのまま人を受け入れる器にも通じる気がするからだ。
「やっぱりなりたいなあ……」
「ん?何になりたいんだ?」
無意識でボソッと呟いた言葉が彼の耳にしっかり届いたらしい。
「えーっとですね……」
どうしよう。
以前は何の気なしに言えたけど、恋仲になった今は何だか恥ずかしい。
しかし ——— 目の前の彼は興味しんしんのようで、とてもニコニコとしている。
……私はこの杏寿郎さんの笑顔が好きだ。
「まだ恋仲になる前、師範のようになりたいって私が言ったの覚えてますか?」
「無論!」
あ、どうしよう。凄く嬉しくてじーんとしちゃった。
「それ、恋仲になった今でも変わりなくて……」
「うむ」
「私、やっぱり杏寿郎さんのようになりたいです!」
彼の大きな双眸が一瞬見開く。
それからすぐに破顔し、先程よりも深い笑みを見せてくれた。
「そうか、ありがとう」
「いえ……」
「七瀬」
「はい………」
湯呑みに入っていた麦茶を飲み終え、食卓に置くと彼が私の右手の上から自分の左手をそっと重ねて来た。
ドクン、と心地よく跳ねる鼓動。彼に触れられるといつも自分の心が弾んでしまう。
「誰かのようになりたいと言う君も好ましいが、俺はありのままの君も大切にして欲しいと考えている」
「ありのまま……」