第1章 継子
ー…
師範の目が泳いでいる。
普段から、視線が読めないお方なのに、
今は、はっきりと、
動揺が見て取れた。
そりゃ、こんな格好…
当然の反応だよね。
でも、師範、
私の事、ちゃんと、
女の子として意識してくれるんだ…。
胸の中が、
なんだかぽかぽかとしてくる。
この気持ちは…
一体、なんなんだろう。
初めての感情に、
戸惑ってしまう。
美玖?
どうしたんだ?
師範が、庭を見たまま、
私に声を掛ける。
あ、私ってば…!
ぼーっとしちゃってた…!
あ、す、すいません…!
戻って、着替えます!
師範、あの…
この羽織り、
本当にありがとうございます!
大切に着ます…!
そう言い残し、師範の部屋を出た。
せかせかと足を動かし、
自室に入り、すぐに襖を閉めた。
そのまま…
その場にへたり込む。
胸が、熱い…。
この気持ちは…
私、もしかして、
師範の事を……?
普段着用の着物に着替え、
羽織りを抱きしめる。
こうしていると、
まるで、
師範に、包まれているように感じられた。
杏寿郎…さん…。
その名をひとり呟く。
あぁ、なんて、
名を口にするだけで、
胸の中が愛おしさで満たされていく。
貴方を想うだけで、
私は、こんなにも幸せになれる。
今は…
これだけでいい。
この想いがあれば、
私は強くいられる…。
秋が終わり、
冬が近づいてきた頃。
私の恋が静かに、
確かな熱をもって、始まろうとしていた。