第1章 継子
ー…
真冬の厳しい寒さも峠を越え、
桜の木も蕾をつけている。
季節は春を迎えようとしていた。
ずいぶんと過ごしやすくなってきたが、
夜になるとさすがに冷えてくる。
冬の名残りを感じながら、
夜の街を一人の女が歩いていた。
桜井 美玖。
鬼殺隊という、人を喰らい生きる生き物を
人知らず退治する政府非公認の組織に所属している。
半年程前に最終選別という、
入隊試験に合格し、隊士として刀を振るってきた。
…少し、冷えるなあ。
今日は隊士になって何度目かの任務に来ていた。
この街に、
鬼がいるらしいという情報が入ったからだ。
私を含む、数名の隊士が送り込まれていて、
皆でばらけて鬼を探しているところだ。
足音を極力立てないよう、
呼吸を絶やさぬよう、
意識して進んでいく。
ピューロ…ピューーロ…
東の方から、
微かに笛の音がする。
……!
もしや、現れた…?
私、美玖は、
音のする方に向かって走り出した。
私は、当代炎柱、
煉獄杏寿郎さんの継子だ。
去年の秋に無事、入隊を果たした。
それから数度、
鬼殺の任務をこなしてきている。
師範による、熱心な指導のお陰もあり、
今日まで、
大きな怪我もなく任務にあたってきた。
ー…だんだんと、
笛の音が近づいてくる。
それと同時に、
何やら重たい…
身に纏わり付くような、
妙な気配を肌に感じる。
…っ!
バサバサッ
突如、木から一匹の鴉が飛び立つ。
カァー!
カゲンノォーーーシーー
カゲンノシーー
コノマチニイルノハー
ジュウニキヅキーーー
…!!
鴉は続ける。
ハシラー!
シキュウ、ハシラヲヨブーー!
ソレマデェー
ハシラノトウチャクマデェーー
マチノモノヲマモレェーー
先程からの嫌な気配…
まさか、十二鬼月が居たとは…。
だけど…!
怯むワケにはいかない…!!
柱が来るまで…
私が、食止めてみせる…!
脚に、力を込めて、
全速力で走り続けた。