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大正鬼殺譚 〜炎柱の継子〜

第8章 那田蜘蛛山





突然現れた大柄な鬼。

身の危険を感じ、
すぐさま鬼の間合いの外へと飛び退く。


美玖は、鬼から目を逸らさずに、
刀に手をかけ、自身の姿勢を低く保つ。

すぐにでも、攻撃に転じられるように。


目の前の鬼は、
グルグルと獣のように唸りながら、
まるでその言葉しか知らないかのように、


俺の、家族に、手を出すな!!


と、再度叫ぶと美玖へと飛び掛かってきた。

美玖は、姿勢を低く保ったまま、
飛び掛かってくる鬼の攻撃をひらりと躱し、

横を過ぎ去る際に技を出した。


炎の呼吸 壱ノ型 不知火


そうして、後ろから、
鬼の頸目掛けて刃を振るう。


しかし、その鬼は、
その巨体からは想像もつかないような速さで反応し、
美玖の刀は頸を少し掠めるに留まった。


……!
くっ…もう一度…!


再度、間合いの外へ出て様子を伺う。


次にこちらへ仕掛けてきた時は、
絶対に外さない…。


刀を握る手にも、自然と力が入る。



しかし、その父鬼は、
美玖から距離を取ったのち、

山の更に奥へと走り出した。



…父鬼は自身の体躯の良さ、
特に頸の硬さには絶対の自信があった。

しかし、目の前にいる鬼狩りの刀は、
いとも容易く自身の頸を切ったのだ。


少しでも、反応が遅れていたら、
あそこで己の命は終わっていた…。


鬼に、鬼殺隊のような信念や理念はなく、

ただただ、生きる為に太陽から逃れ、
人を喰らっているのだ。

敵わないと悟った鬼が逃げ出すのは、
極めて普通の事であった。


柱が十二鬼月と、
なかなか相見える機会がないのもそういった事情があっての事。
鬼側が、逃げ出し姿を見せないのだ。



ー…


父鬼は美玖が居たのと反対側まで移動していた。
ハァハァと息を切らしている様から、
必死で逃げ帰った事が容易に想像できる。



そこへ、音もなく現れたのは、

先程美玖の前から消えた、

十二鬼月と思わしき子供の鬼であった。



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