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【進撃の巨人】エルヴィンSS(By まりも)

第2章 『命ある限り』誰でもエルヴィンSS5月


激しい雨が窓を叩きつけている。こんな日はいつぶりだろうか、湿気はドレスの大敵だ。どのドレスも自分にとっては可愛いわが子だが、飾り窓やマネキンに着せたドレスに気を取られ、ほとんどの人が見ない奥に一番大切なそれはあった。

「良かった、大丈夫そうかな」

カバーを外し隅々までチェックをする。両肩にあるはずの肩紐は片方、左肩だけになっているがその紐はビーズで美しく装飾されていた。幼いころの私が遊んで右肩をちぎってしまったのだ。本来ならば捨てる所を、ママが「勿体ないから」とせめて左肩だけでもゴージャスに見えるように装飾した。泣きながら「ごめんね、ごめんね。私が結婚するときに着るからね」とドレスに謝ったっけ。まぁ、結局着る機会もなく、なおかつ片方だけの肩紐ドレスに貰い手もつかず、結局私と一緒に何年もお留守番だ。両親は早くに亡くなり、ウェディングドレス店を営んでいるのに親にドレス姿も見せられなかった親不孝者だ。他の純白ドレスに比べて、若干黄ばんではいるものの、ドレスに問題がないことを確認し、元あった場所にそっと隠すように並べた。


雨の音がひと際大きくなったかと思うと、エルヴィンが立っていた。見慣れた光景だったはずだ、隣に可愛い女兵士がいることを除いては。

「いらっしゃい。今日は可愛らしい兵士さんと一緒?」
「ああ。ちょっとな」

軽く頭を下げた女兵士は20代前半だろうか。長い髪は綺麗に編み込まれており、大きな瞳がスパンコールのように光っていた。頬に触れている雨粒が肌を弾いて浮き上がっている。渡したタオルでエルヴィンを拭こうとし、エルヴィンがそれを制し、自分を先に拭くように言った。

「俺の副官だ」

頬に朱がさしたのが雨で暗い店内でも分かった。台所に逃げるように籠り沸騰するヤカンを眺めた。

「選べ」

エルヴィンが言うと、明るい返事が聞こえてきた。よほど嬉しいのだろう、足取りが軽くなっているのが軋む床から伝わった。
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