第2章 『命ある限り』誰でもエルヴィンSS5月
ティーカップを2つ、トレーに載せて持っていくと自分が望んだ幸せがそこにはあった。
ドレスを取り出してはエルヴィンの顔をチラリと見ている。エルヴィンはバツが悪いのか伏し目がちだ。
「・・可愛い子だね」
「・・ああ」
エルヴィンに選ばれた兵士は、ドレスを取り出してはこちらを盗み見している。エルヴィンが何か言うのを待っているのだろうか。──それが君に似合っているよ──とでも何とでも。視線がエルヴィンというより、私に注がれている気がするが・・。私はあんなに若くて可愛い子にライバル視してもらえるような女ではない。
──安心して、私はただの幼馴染だから──
エルヴィンとも視線を合わさず、ずっとその言葉を唱えていた。
「これがいいです」
40分ほど経った頃だろうか。スペースの割には量が多いウェディングドレス、一つ一つを見ていた女兵士が声を上げた。
「そうか」
恋人の長い買い物がやっと終わったという喜びだろうか。エルヴィンの声のトーンは高かった。
「ありがとうございます」
反射的に言ったはいいが、そのドレスを見た途端息をのんだ。片方しか肩紐がない、あのドレスだ。
「よろしいんですか?その・・古い形でして・・紐だって片方しかなくて・・」
それなら何故売るんだ?そういわれても仕方がないが、口が勝手にそのドレスを買わせない理由を喋っていた。
一瞬怯み、エルヴィンの顔を見るその女性にエルヴィンからの一言は、購入を決意させるのに十分だった。
「いいじゃないか、俺もそれが似合うと思っていた」
財布から紙幣を取り出したエルヴィンを説得などできない。さようなら、私のドレス。でも良かったね、あなただけでもお嫁に行ってね?彼ならきっと幸せにしてくれるから。
ホッとした表情を浮かべた恋人は、お腹をそっと撫でた。
男性がドレスを贈り、女性はその分何かを男性にお返しをするのが通例だ。彼女はエルヴィンの愛に応えるべく、青い瞳の可愛らしい赤ちゃんでも贈るのだろうか。