第2章 『命ある限り』誰でもエルヴィンSS5月
彼の口から冗談でも女性の事がでてきたのは、彼がまだ10代のころ飲み屋の女性を好きになった時以来だ。あの時は──彼女はアイツと一緒の方が幸せなんだ──そう言って明らかに無理をして笑っていた。
「誰か候補はいるの?」
「あぁ」
スパンコールがついた生地を握る手に力がこもる。
時を戻したいと思ったのは、子供の頃変な悪戯をして怒られた時以来だと思う。どうして私はあんな質問をしたのだろう。
「君は?」
エルヴィンはカップの中を覗き込み、残り少ない紅茶を揺らしている。彼の表情が曇っているのは年増で未婚の私に聞きづらいと思いつつ、聞かれたから聞き返した、そんな感じだ。
「黄ばんだオバサンなんて誰も貰ってくれないよ。結婚式は呼んでね?エルヴィンにプロポーズされて断る女はいないよ。もう飲み終わった?」
努めて明るく振舞ってみても自虐ギャグが痛々しく、彼の表情は困惑している。いつもなら紅茶のおかわりを訪ねる所だが、今日は飲みかけにも関わらずカップを奪い取ってしまった。
「また来るよ」
彼が去っていったのは風に揺られたドレスを見ればわかった。