第4章 『かげおくり』誰でもえるゔぃんSS10月
「お誕生日おめでとうございます」
晴れやかな顔をする彼女の手を握ろうと右手に力を込めるも、握りこぶしを作っただけだ。それもそうだろう、触れていたのは影だけなのだから。
「この為に連れてきたのか?」
「はい。これ、“かげおくり”っていうんです。団長と2人っきりの姿を空に残したくて」
上官、しかも団長にこのようなことを聞かれたら、普通ならば委縮するはずだが彼女は笑っていた。
「俺は君の願いを叶えるために、肌寒い中外に連れてこられたのか?一体誕生日はどっちなんだ?」
呆れ顔の俺に対して遠慮はしない。
「だって他の子の延長線上で、あの部屋でお祝い言いたくなくて」
口を尖らす彼女に思わず笑ってしまった。
彼女の特徴を述べるときに、“負けず嫌い”も付け加えようか。初めて出会った時には、正直ここまで必要不可欠な存在になるとは思わなかった。それは、団長としてもエルヴィンスミスとしても・・。
「空、好きなんです。団長の瞳と同じ色だから」
今日くらい衝動に身を任せてもいいだろう。彼女に触れようと手を伸ばした矢先・・。
「ヘックシュン!」
冷たい風が彼女の身体を冷やしていた。俺は自分の外套を脱いで渡すわけでもなく、その中に彼女を包み隠す。
「団長!?」
「君には驚かされてばかりだ」
副官に振り回される自分を、誰が想像しただろうか。
熱を帯びていく彼女の身体が碧い空に吸い込まれぬよう、しっかりと抱きしめた。
―Fin—