第2章 『命ある限り』誰でもエルヴィンSS5月
部屋中に飾られた純白のドレスが波打った。
「いらっしゃい・・エルヴィンか」
「悪かったな客じゃなくて」
兵団服を身に纏った長身の男はエルヴィン・スミス、私の幼馴染だ。5歳年下の彼の面倒を見ていた日々が懐かしく感じる。いつからだったか途端に彼の身長が伸びてあっという間に追い越されてしまって、それ以来なにかと“面倒を見てもらっている”気がしている。
彼が扉を開けて入店するのを合図に、店の中にある簡易厨房に入りお湯を沸かす。
「最近はどうなの?」
そんな世間話をしながら紅茶を入れる。エルヴィンは紅茶を飲み、私は縫いものをしながら雑談をする──この時間が私の心の休まるときだった。
「相変わらずだ。面白い話もなくてね。君こそどうなんだい?」
店内のドレスが代わり映えしないのを察してはいるのだろう、遠慮がちにこちらを気遣っている。
「全然だめ!今のご時世結婚式なんて流行らないわね。真っ白のウェディングドレスも黄ばんできちゃうわ」
「何があるかわからない・・そんな不安から貯金に走るんだろう。よく手入れされているのにな」
青い瞳を左右にゆっくりと動かし、感心したようにドレスを見ている。両親のウェディングドレス店を引き継いで20年、いつか自分の店のドレスを着て結婚式を挙げるのが夢だった。20代の頃は来年こそ来年こそと期待して生き、30代は頼むと願掛けして生き、40代の今は悟りの境地だ。ご縁がないのはウェディングドレスに囲まれすぎたせいだろうか?
「手入れするしか仕事がないから。エルヴィンは以前より休めるようになったのかしら?最近はよく寄ってくれるから嬉しいな」
一瞬目を見開いたかのように見えたが、すぐに自身の右腕があった所に目線を向けた。
「この右腕だからな」
兵士としては手負いだろう、きっともう前線には立てない。本来ならば引退する身分だが、人類はエルヴィンの頭脳を欲していた。
「以前、働きすぎたから丁度いいのよきっと」
こんな言葉を吐いても彼の慰めにはならない。わかっているがそう言うしかなかった。
「そうだな、休むのも悪くないかもしれない。働き者の嫁さんでも貰うかな」