• テキストサイズ

【進撃の巨人】エルヴィンSS(By まりも)

第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月



♢♢♢
なぜ今こんな事を思い出しているのだろうか。熱を持った体が、助けてくれと悲鳴を上げている。多くの同胞を殺した自分は、決して許される存在ではない。わかっているが、夢を諦めきれない時点で、更にこんな昔の事を思い出している時点で、俺は幸せになりたいと願っている、どうしようもない男なのだろう。
あの日、手を握り返したら変わっていたのか?結果は誰にもわからない。そして、それが自分にとって幸せかどうか、彼女にとって幸せかどうか誰にも分らない。現に俺はいま生死をさまよっている。右腕はなくなったはずだ、でもまるで存在するかの様な錯覚を覚える。痛い、これが幻肢痛か。何かに掴みたくて藻掻く手は、我ながら往生際が悪い。左手は?左手には何か圧がかかっていた。全身から発せられる熱に痛み、これが天罰。そして死ななかったとしても、更に辛い思いを俺はしなければならないのだろう。ここで全てを諦めてしまいたい、そんな気持ちだ。

額にヒヤリとした感触がした。ほんの1秒だけ冷たさを感じても、すぐさま体内からの熱でぬるくなる。
水らしきものが額から目元、そして耳まで流れ落ちていく。誰かが氷を含んだタオルでも当ててくれているのだろう。朧気な意識のなかで誰かの姿が見えた気がするが、看病してくれている衛生兵だろう。顔に降りかかる水滴と熱はあの日、彼女にはじめて心を乱された日を思い出した。きっとこれも何かの運命。どうせ死ぬのならば注射は彼女に・・そう伝えようと左手に力を込めると、その手を力強く握り返してくれた。

「・・団長、エルヴィン団長」

呼ばれて瞳を開けると、そこには懐かしい顔があった。ブラウンの髪の毛を結い上げてはいるが、零れ落ちた毛から苦労が見て取れた。眼前に降り注がれる雫はあの日の雨のよう。

「よかった‥大丈夫ですから」

自分のせいだと思っていたこの熱は、彼女のものなのかもしれない。そう思わせるほど、ぐっと俺の手を握ってきた。良かった、これで最期の注射を頼める・・。

「もうどこにも行くな」

口が勝手に紡いだ言葉は、あまりにも未練たらしかった。一瞬大きく目を見開いたが、大粒の涙と共に俺の左手に唇を当てた。

「どこかに行ったのは、エルヴィン団長ですよ?」

彼女の涙を無い右手で拭う。勿論そんな事は不可能だが、きっと彼女は感じ取ってくれているはずだ。

/ 41ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp