第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月
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「お前を調査兵団、駐在衛生兵に任命する!より高い確率の兵士の戦線復帰を目指すように」
その報告を分隊長から聞いた彼女は、目を丸くした後、涙をこらえたらしい。もう自分はここには居られないと思っていたのだから当然だろう。嫌になって退団希望を出したのでは無いのがわかっただけでも安心した。そう、調査兵団のために負傷兵の戦線復帰率を上げるのは悪くない話だ。彼女の腕は確かだと評判でもある。これは最後に俺が彼女にできることでもある。
その日を境に俺は病室からは遠ざかっていった。
「エルヴィン団長」
声の主は彼女だった。
「この度は格別の配慮を賜り、誠にありがとうございます」
松葉杖をつきながら挨拶に着た頃には、少し動けば汗ばむ季節になっていた。松葉杖をつきながらも、背筋を伸ばした敬礼をしている。その姿は次の道へ向かう覚悟が出来ているようだ。
「君の今までの功績を配慮したものだ。気にするな」
思わず彼女に触れそうになり、動いた手を引っ込める。
「あの・・」
「なんだ?」
「治療してくれた兵士から聞きました。団長が手を握っていてくれていたと。これからも・・私は団長の手を握ってもよろしいでしょうか」
彼女の瞳に、戸惑いと熱量がこもっていた。以前の俺だったら美しいと思っていたかもしれない。今でも美しいのは変わりない、だが酷く恐ろしかった。背中に汗が伝う。不快感を取り払うかのように極めて低く告げる。
「何を勘違いしているか知らないが・・。これからも職務に励め」
彼女は何も言わなかった。何かを堪えるかのように背を伸ばし敬礼をするだけだった。