第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月
♢♢♢
兵団が落ち着きを取り戻し負傷者の退団希望を処理する時期になった。手元にある退団希望… そこに記された名前を撫でる。当然のことだろう、壁外にはもう出られないのだから。四肢のどれかが欠ければ騎乗すら困難になる。両手が残っていれば義足を使って開拓地で働くことも可能だ。団長として承認のサインをすべきなのはわかっている。自分の心を凍らせ、感情を捨てなければ。揺れ動くのは、猛暑のあの雨の日だけで十分だ。団長は常に調査兵団のことだけを考えて生きる、それが命を落とした兵士への最大の礼儀であるはずだ。
「調査兵団の利益だけを考えて生きる」それを建前にここまで来た。本心は夢のことしか考えていないのだが、自分を騙している。調査兵団の利益のために俺ができることは…。
引き出しの中から辞令の書類を取り出し、筆を走らせた。