第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月
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自室に戻る途中でリヴァイに会った。アイツがこんな所にいるのは珍しく、俺を待っていてくれたのは明白だ。
「どうしたリヴァイ」
あえて気付かないふりをして尋ねる。感情を顔に出さないようにしているつもりだが、リヴァイ、ミケ、ハンジあたりにはバレているだろう。団長が一兵士にずっと付き添っていたのだ、恐らく兵団中にバレているかもしれない。
「悪く思うな。みんな、お前に悟られないようにしていたんだ」
「・・そのようだな」
被害報告も恐らく虚偽のものだったのだろう。壁内に戻るまで俺の心に負荷をかけないようにしてくれていたのだ。つまりは俺の心を乱す可能性を潰すために、俺は部下に気を遣わせたのだ。ただでさえ、自身の事で精一杯の壁外でだ。作戦遂行以外の事に精神を使わせたことの重大さが、わからないわけではない。俺は調査兵団13代団長、エルヴィンスミスなんだ・・。
リヴァイに休むように伝え、自室の扉を開けようとした時に初めて、握りこぶしを作っていたのに気づく。
震える手を開くと一気に血の気が戻った。俺は生きている。しかも五体満足で。初陣では指一本欠損することなく壁内に戻れたことを、僅かに生き残った戦友と喜び合った。何度となく壁外に繰り出すうちに、一人また一人といなくなる戦友を思えば、生きている事を大っぴらに喜べなくなっていた。特に班長、分隊長と階級を上げるごとに。自分の命令一つで部下を殺すのだから。
もちろん俺が夢のことを語るのは許されない。悟られてはいけないのだ。
そして、今自分がやっていることは…。団長失格なのは明らかだった。