第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月
恋人の死を引きずっている・・当然だ。何人とそんな兵士を見てきたし、亡くなった兵士の家族の嘆きも嫌というほど見てきた。それなのに、胸の不快感が取れない。
「わかってはいます」
「ならなぜ止めない?恋人はもうここにはいないぞ!」
苛立ちが声に現れ、目の前には顔面蒼白の女がいる。
「・・すまない」
「いえ・・私が悪いので」
無理に笑顔を作る彼女に言った。
「少しずつ手を離すことに慣れてみてはどうか?手を握りたくなったら、近くのものを握るとか。例えば近くに私がいれば、私の兵団服でも腕でも手でもいい」
提案を終えてから、いつもの自分がする、冷静で建設的な内容とは異なること気付いたが後の祭りだ。
「私が握ってしまうと、分隊長に危険が及びます」
言われて気付く自分の短絡的思考に、久々に羞恥心にさいなまれた。
「でも、ありがとうございます」
はにかみながら笑う彼女に対して、トコトン恥をかくことにした。
「では、訓練や壁外以外で癖がでそうになったり、泣きたいときは私の兵団服なり、腕なり手なり貸そう。だから少しずつでいい。治せ」
「エルヴィン分隊長・・、あのっ」
言いかけた彼女の言葉をハンジの大声が遮った。
「エルヴィーン!!聞いてくれぇ!」
ハンジの声の方を向くと、背中から微かに震えた声がした。
「・・ありがとうございます」