第3章 『火照る身体』誰でもエルヴィンSS8月
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重症兵の視察は毎回心が痛む。どのような身体になっても回復した時点で、未来が与えられる。多くの兵士は嘆きこれから生きていくことを恨むものだ。どうせなら死にたかったと。その鬱憤は自分や団長、他の五体満足な兵士にぶつけられることも多々ある。死人に口なし・・。いっその事その方がどれだけいいか。
「よく戦ってくれた」
辛うじて意識がある奥のベッドの兵士に声をかけても、僅かに唇が動き瞳は天井を見つめ動かない。
他の4名は意識がなく、両腕をもがれたもの、内臓が飛び出しているものなど様々だ。おそらくこの4名には注射が打たれることになるだろう。せめてもの感謝をこめて手を握り、「勇敢な兵士だ」と声をかける。自己満足なのはわかっているが、労いは分隊長としての責任だと思っている。
ゆっくりと開けたつもりでも、立て付けの悪い扉は音をたてた。
扉の方に目をやると、ブラウンの髪を結いあげた女性兵士が立っている。
「分隊長!お疲れ様です」
小声だが通る声で敬礼をし、病室の扉に近いベッドに寝ている者から一人一人覗き込み、軽く手を握って行く。
彼女の手を使った問いかけに答えられる兵士はこの部屋にはいないだろう。
「さっき食堂にいたか?」
「・・はい」