第26章 ふたつの半月
俺ひとり、焦った所で
この状況をどうにかできるわけではない。
そんな事、わかりきっていたのに。
何で…あんな事しちまったのか。
って、それは…しばらくあいつのとこに
行けなくなるからだ。
俺にだってオシゴトはある。
悪いな、片手間にしてるみたいで。
…どっちがそうか、とは言わないが。
……どっちも片手間じゃねぇわ!
同じくらい本気だし真剣だ。
畜生、ゆっくりあっためて来たってのに、
今ので台無しだ。
泣かせた上に、大嫌いと来たモンだ。
一巻の終わりだって、自分で言ったんだろうが。
何をやってんだ俺は。
でも、ああでも言わねぇと、
あいつはいつまでもあのままだ。
…気持ちがこっちを向いてる確証だってねぇのに。
だけど、
絶対に俺のこと気になってるだろ?
手を繋いでも嫌がらなかった。
弁当持ってく時に俺がついて行くと
ホッとしたように笑った。
1度目も2度目も、
すんなり俺の屋敷に来た。
イヤなヤツだったら、来たりしないだろ?
そうだよな?
でも俺のいい所は、この自信だ。
めげないし。
その気がねぇなら、その気にさせてやりゃいい。
どこから来るかはわからないが
そうさせるだけの自信はある。
だって睦は、
いま宙ぶらりんだから。
長いこと好きだった男を諦めようとしてる。
そこに、
都合よく自分を想う俺が現れた。
それに流されるのを拒んでるんだ。
そっちがダメだったらこっち、みたいなのが
許せないだけなのが
手にとるようにわかる。
だから、つつけば堕ちるに決まってる。
ただこの間の、大嫌いはこたえたな…
そんな事を考えながら、
屋敷の門の前をうろついている睦に
声をかける。
「おぅ、いつまでそうしてんだよ」
「うわぁっ‼︎」
突然の事に驚いた睦は
必要以上に大きな声を上げた。
「用があんなら入れ。でなきゃ帰れ」
俺にも考えたい事がままある。
どうやったら睦を堕とせるかとか、
どうしたら睦がこっちを向くかとか
何を言えば睦に俺を植え付けられるかとか
どこまで睦に踏み込んでやろうかとか。
だからいくら相手が睦でも
中途半端はご遠慮いただきたい。