第26章 ふたつの半月
「な、に…それ…!」
「俺と一緒にいたら幸せしかねぇのに」
こつんと、
勝手におでこを合わせて
これまた勝手な事を言う。
「なんで、急に…」
「悠長になんかしてらんねぇんだよ…」
吐き捨てるような台詞。
どこか違和感を覚えた。
「もう待てねぇの」
「ちょっと‼︎」
正面から力いっぱい抱きしめられて
お互いの隙間が埋まる。
「やめて下さい…ッ!」
「やだね。睦が俺を好きだと言うまで」
「言いません!」
「じゃずっとこのままだ」
「何でですか⁉︎言ってることおかしいです」
「あぁ…おかしいんだよもう。
睦が欲しくてたまらない。それなのに
お前はまだあの世帯持ちの男に現を抜かしてるし
俺のこと見ないフリなんかしやがるし」
「見ない、フリ…?」
「してるだろう?お前はもう俺に惹かれてるくせに
それに気づかないフリしてる。
逃げずに考えろ。お前の心にいるのは誰だよ。
ホントにあの男か?」
「考えろって言われても、」
「俺を受け入れねぇのは、
まだあいつに気があるからか?それとも、惰性か。
もしくは、俺に対する後ろめたさか?」
「なんで、そんなこと言うの…?」
「……」
「気づきたくもない事に気付かせないでよ!
私が…私の気持ちは…」
だめだ、私の方こそ、おかしくなる。
泣きたくもないのに涙が溢れて…
それが何の涙なのかもわからない。
そう、わからないんだ。
だって、
「まだ、わかりたくない…!」
「泣くほど俺のこと好きなら
飛び込んで来りゃいいだろ!」
「大嫌いだよ宇髄さんなんか!」
そう言われた時の、彼の一瞬の無表情を見て
私は一生分の後悔をしたような気がした…
それ以上何も言わなくなった私を、
更に強く抱きしめて
「…時間がねぇ。俺はもう行く」
苦しそうに宇髄さんが呟いた。
どれだけ押し返してもビクともしなかった腕が
呆気なく解かれる。
私の顔をチラとも見ずに、
宇髄さんは窓から出て行った。
「またな」
と、ひと言呟いて。
本当に、『また』がある?
そう問いたいくらい、
突き放された気がした…
真っ暗な窓から吹き込む風がやけに冷たい。
1人残された私は
その窓を閉める事さえせずに
ぼーっと突っ立っていた。