第26章 ふたつの半月
「俺は。睦が好きだ」
「……」
もう、頭が真っ白。
…好き。
私が、好きだって
そう言った?
「…さっきから、なにを言ってるの…?」
私は、泣きすぎた所に今の状況が加わって
訳がわからない。
「だってまだ、会って2日しか…」
「もっと前から見てた」
遮るような台詞。
「…見てた…?」
強く抱きしめられていた腕から力が抜けて
私は無意識に振り返る。
すると当然、間近に宇髄さんがいて
ビクッと全身が竦んだ。
彼の胸に手を添え身を引くと
悲しいかな、木の幹に行く手を阻まれる。
私は震えながら、首を小さく横に振る。
「…俺を、拒む?」
切なげな問いが私に降りかかった。
「全部…全部わかってて、優しくしてたの?」
何故だかそれが、ひどく悲しい。
あの優しい笑顔は?
私への気遣いは?
「睦…」
「離して下さい。
私、他の人の事なんか考えられません」
「あの男は、もうどうにもならねぇだろ」
「っ…!」
そう、その通りだ。
わかってる。
何度も…何度もやめようと思ったの。
でも、その度に苦しくて悲しくて…
どうしようもなかった。
「あんなのやめて、俺のこと見ろよ…」
「かん、たんに言わないで、」
迫る宇髄さんに、逃げ場のない私。
近づく体温から逃れようとするも
顔の横に両腕を付かれて…
「なぁ、俺なら睦を泣かせねぇ。
昨日も…その前も、楽しかったろ?」
「そんなの…下心です」
楽しかった記憶が、ぐんと色褪せたように感じた。
「当然だ。俺はお前が欲しい。
そのために出来ることはやる」
…認めるんだ、下心だと。
「きれいなだけじゃ、お前の心は奪えねぇ。
他所の男に気をやってて
始まりが差し引かれた状態なんだ。
それくらいしなきゃ
お前は俺に気づきもしねぇだろ」
「だからってウソで楽しまされても…」
「嘘なんかじゃねぇよ。
好きな女と一緒にいて、楽しくねぇわけがねぇ。
俺が楽しきゃ、睦も楽しいはずだ」
…性格を、読まれている。
本当に私を好きだって言うの?
…そんな事を言われても……
「…今は、ムリです」
私は身を屈めて、
宇髄さんの両腕の隙間からするりと抜けた。
「今は無理でも、お前はきっと俺を好きになる」