第26章 ふたつの半月
他よりも濃いめのピンク。
大きく手を広げるその木は
なんとも堂々とした風格。
ほぼ満開の桜を目にした途端、
私は堪え切れなくなって
その根元に膝をついた。
風に舞う花びらが、
私を抱きしめてくれるようで
声を上げて泣いてしまう。
いつまでこんな事をしてるんだろう…
どうしたら、海龍への想いを断ち切れるだろう。
もうどうしようもなくて
…太い幹にもたれ掛かるようにして、
もうどれくらいそうしていたのかな。
涙が枯れ果てるなんてウソだ。
全然止まりはしない。
止まらないながらも
ほんの少しだけ気が済んだ私が
幹に手をついて体を起こした時…
突然、背中から伸びて来た腕に抱きしめられた。
「…っ‼︎」
驚きのあまり悲鳴が声にもならない。
私の戸惑いをよそに
それは力いっぱい私を抱きしめ直した。
「お前、まだそんな事してんのか…!」
聞き覚えのある声。
私の体がうずもれてしまう程の
大きな体の持ち主なんて…
「…う、ずいさん…?」
それしか浮かばなかった。
「睦、何してんだお前…!」
苦しそうに言う彼。
「なんで…」
「こんなとこで泣いてんなよ」
あ…、
「泣いて、ません」
「ンなヘタな言い訳が通用するか。
お前が泣く場所くらい知ってんだよ」
「何それ、どうして…ッ」
息ができないくらいに抱きしめられて、
「なにっ、してるんですか!離して…」
酸素を求めて身をよじる。
「お前が誰を思って泣いてんのかも
全部わかってんだ」
「ッ、なん、え?…なに…」
何を言っているのだろう。
そんなの、知ってるわけない。
だって誰にも言ってないんだから。
「1年前にもここで1人で泣いてたな。
丁度あの男に、ガキが産まれる頃だ」
「‼︎」
ホントに、…本当に知ってる…?
「1年も経ってんのに、
お前は何ひとつ変わらずか?
相変わらず1人で、ここへ来て泣くのかよ」
苦しくて暴れるも、
びくともしないこの体。
どれだけ力が強いの…
「宇髄さん、苦しいから…ッ」
「俺んとこ来い」
………え?
「泣きたきゃ俺んとこへ来いよ。
なんで1人で泣くんだよ。俺がいるだろ…」
「なんで、宇髄さんを…」
頼らなきゃならないの…?
関係ないじゃない…。