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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第26章 ふたつの半月





「…大丈夫、です。
ご迷惑をおかけして、ごめんなさい」

泣きそうなのを必死に堪えて、
なんとか笑って見せる。

そんなムリを、してほしくなんかねぇのに。
俺の前では、曝け出せるようになったらいいのに。

「キズによく効く軟膏がある。
ちょっと待ってな。傷口、おさえとけよ」

涙を拭く時間も、必要だろう…?
俺が戻るまでに
笑う準備をしとくといいよ。
















毎日毎日、女々しいと自分でも思う。

この想いを捨てたいと思っていた気持ちは
どこへいったのだ。

もう、…やめようかな。

そんな事を考えながら
海龍の家の前。

私はいつも、勝手口に回るのに。
どうして、表通りから来ちゃったんだろ。

これはさ、
もう…やめときなって誰かが言ってるんだよ。
誰かって…
例えば、神さま、みたいな誰か。
それとも宿命のような何か。

海龍の家の前に立つ木。
その枝に咲いた花を掴むのは海虎(かいと)。
1歳にもならない、海龍の息子だ。
それを抱くのは海龍の奥さん。
その隣に寄り添う、笑顔の海龍。

大丈夫にならないといけないの。
こんな場面を見たとしても
私は平気で笑っていないといけないの。
だって、海龍は私の気持ちを知らないんだ。
私だけしか知らない、内緒の恋。

幼い頃からずっと一緒で、
ずっとずっと一緒だと勝手に思っていた。

でもそんなにうまくいくわけがないよね。
幼馴染なんていう関係に胡座をかいて
なにもしなかった私が悪い。

でも、ずぅっとあたため続けて来た気持ちを
1度も解放する事なく、
どうやって終わればいいんだろう。
そのやり方が、わからない。

家族3人、楽しそうにしている所に
入り込む勇気はなくて、
私はお弁当を玄関の前に置いて、
こっそりその場を後にした。




泣かない。
まだ、こんな所だし。
町を歩きながら泣くなんてあり得ない。

私は足早に町を抜けて、…
向かう場所はただひとつ。
私を慰めてくれる、

あの、桜の木。

今頃満開?
去年も桜の頃だったっけ。

あそこは山の入り口だ。
めったに人の寄り付かない、
それでも私の足でも行ける
丁度いい場所。

私が泣いていい場所は、あそこしかない。





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