第26章 ふたつの半月
「…宇髄さんの後じゃ霞んじゃいますよ。
お花も宇髄さんの所へ行きたいって言ってます」
こんな華やかなものが私に似合うわけがないと
自分の耳に乗った花を取ろうとした手を
そっと止められながら、
「なんだそりゃ」
ぷっと吹き出して
「鏡、見たことあるか?」
可笑しそうに言う。
鏡…?
「見た事ありますよ…?」
「私って可愛いなぁって思った事ねぇの?」
……
「何を、言ってるんですか?
あるわけないじゃないですか」
呆れてしまう。
そんな事、思うわけがない。
思うとすれば傾国の美女か、もしくは
よっぽどの自信家だ。
「そっか。じゃ教えといてやるよ。
お前は可愛いよ」
「…は、…ぁ…え?」
真っ直ぐに私の目を見つめて
宇髄さんが大真面目に言った…
ぽんぽんと頭を、少し乱暴に撫でられて
更ににこっと笑われると…
一気に全身の熱が、顔に集まったように感じた。
「何言うんですか…!びっくり、します!」
そんなこと、言われた試しがない。
しかも男の人に。
海龍にだって言われたことはなかったのに。
「…睦の周りの人間は、
揃いも揃って見る目のねぇ野郎ばかりだなぁ?」
呆れたように、
そして私に言い聞かせるように、
宇髄さんはきゅっと首を傾げてこちらを見上げる。
その言い方が、含みのあるように感じて
様子窺いに見つめ返してみるけれど
私如きに何がわかるわけもなく…。
「……」
何も言えなくなった私に
宇髄さんは急に慌て出し
「悪ィ悪ィ。続きやってきていいぞ。
ただし、もう花は切るなよ」
私の体を掴み、くるりと反転させた。
ギシギシと音がなりそうなくらいギクシャクと
私は芍薬の木まで戻り、
へたり込むようにしゃがむ。
…なんだったんだろう。
何を目的とした会話だった?
なんで急にあんな事を言われたんだろう…
ちょっと、驚いただけだよね?
慣れない事を言われたから。
そう思うのに…
ものすごく、…胸が騒ぐ。
それをごまかしたくて、
私はまた1本、枝を刃先に通して
パチン
と勢いよく切り落とした……
「ったぁあ‼︎」
広い庭に響き渡る、睦の叫び。
しゃがみ込んだ睦の背中を
ぼんやりと眺めながら、
余計な事を言っちまったかなぁと
後悔しかけていた時の事だ。