第26章 ふたつの半月
パチン
と、音を鳴らして、細い枝が断たれた。
私はその感触が大好きになり、
宇髄さんに上手な切り方を教わって
少し伸びた枝をいくつも切っていた。
宇髄さんは縁側に足を組んで座り、
にこにことこちらを見ていたり
ぐーっと伸びをしたり空を眺めたり…
何をするでもなく、そこに居てくれる。
相手にされるわけでもなく、
話しかけてくることもない。
それがなんだかとても心地よかった。
私は宇髄さんに背中を向けてしゃがみ込み
……
パチンと、また新しい枝にはさみを入れた。
「宇髄さん」
私はそれを持って、
床に両手をついて
背中を伸ばしていた大きな人に声をかけ、
その目の前に立った。
「んー?」
と、体を起こしてきた宇髄さんは目を見張る。
「あーあー、お前…切っちまいやんの」
怒るでもなく、優しく言い放った。
「だって」
「だってじゃねぇよ。
貴重な早咲きの一輪を……おい?」
私は手を伸ばし、
あまりに美しくて手折ってしまった一輪の花を
宇髄さんの耳に掛けさせた。
「ほら、とっても似合ってる!」
淡いピンクの大輪の花。
八重に開いた花びらはとっても華やかで
思った通り、この人にはよく似合う。
満足した私はご機嫌で、
再び剪定に戻ろうとした。
「こら待て」
叱るような声を聞いて慌てて振り返る。
せっかく咲いた花を
勝手に切ったりして、怒ってるのかな。
と、少し不安に駆られたけれど、
目に入った彼の表情は穏やかで…
「この花の名前、知ってるか」
耳にかかった花を手に取り
それを私に見せつける。
「…知りません」
花には詳しくない。
きれいで可愛いお花は大好きだけど…。
「芍薬だ。美しい女の象徴だぞ。俺より…」
組んでいた足を解き、
その間に引き寄せられると
頭の後ろに手を添えられて、
今度は宇髄さんが私の耳にその花を掛ける。
耳の上を枝がくすぐって
ぞわっと肌が粟立った。
くすぐったくて肩を竦めると
「睦の方が似合うに決まってる」
その様子を見た宇髄さんは
愛(いつく)しむような笑みを浮かべる。
昨日から思うけれど、
なんて優しく笑うのかな。