第26章 ふたつの半月
私はそれに素直に従って
「勝手にごめんなさい」
庭に入っていた事を謝罪した。
それなのに
「睦ならいい」
よくわからない事を言う。
私ならいい、…?
「……昨日はありがとうございました」
理解しきれないまま、私はお礼を述べた。
「重箱を、取りに伺いました」
宇髄さんのすぐそばまで行って
要件を告げた。
宇髄さんは、私の顔をまじまじと眺め
「…今日も…時間あるか?」
何かを思いついたように言う。
時間があるかと問われれば、
答えはある、だ。
今日もおじちゃんに、
重箱の回収を終えたら
後の時間は自由にしていいと言われたのだ。
…あの2人は私に甘いと思う。
まだ私の事を子どもだと思っているみたい。
「……」
あります、と、素直に言ってもいいものか。
だってそう言ってしまったら、どうなるの?
また、
相手をしろと言われるのではないかしら。
それをわかっていて頷くのも
何となくおかしい気がする…
答えを出すのを悩んでいる私を見て、
「…また1人で…」
宇髄さんが淋しげにぽつりと言った。
「…え?…なぁに?」
ひとりで…?
「…いや、何でもねぇ。
時間あるなら、ちょっと遊んでけ」
さっきの淋しそうな表情とは正反対の
爽やかな笑顔を浮かべた。
そろそろ重箱取りに来んのかなぁ…
なんて、
ぼんやり庭木の剪定なんかをしていたら、
何となく視線を感じて
パッとそちらを見遣ると
居るはずのない女がそこにいて、…
ちょっと会いた過ぎて、
幻覚でも見てんじゃねぇかなと思い
声をかけてみたら
こんにちは、と言って可笑しそうに笑いやがる。
幻覚じゃなかった。
そこにいた。
本当は、触って確かめたかった。
だが調子に乗って、
やっと近づいた距離を
フイにするわけにはいかない。
でも睦の様子がどうにもおかしかった。
何があったかわからねぇが、
ひどく落ち込んでいるのがありありと
表情にあらわれていた。
何があったかを、俺が訊いたら
こいつ嫌がんだろうなぁ。
と、
思った俺は
少しだけ遊んでいくよう提案した。
気を紛らわせてやれたら
それがいいと思った。